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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1155号 判決

控訴人 中村亮一 外四名

被控訴人 深野金四郎

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  (被控訴人の当審における新たな請求について)

控訴人らは、被控訴人に対し、金七八万一、〇五〇円及びこれに対する昭和四八年一〇月二七日以降完済まで年五分〇金員並びに昭和四八年四月一日以降別紙目録記載の土地明渡まで一ケ月三万五、四九二円の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

3  控訴人中村亮一の当審における新たな請求を棄却する。

4  控訴費用は、これを一〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その九を控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の原審における請求及び当審における請求を棄却する。被控訴人は、控訴人中村亮一に対し、金九万三、〇〇〇円の支払を受けるのと引き換えに、別紙目録記載の土地につき昭和二三年六月二五日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。(当審における予備的請求)被控訴人は、控訴人中村亮一に対し、別紙目録記載の土地につき昭和三三年六月二四日付時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴及び控訴人中村亮一の当審における予備的請求を棄却する。(当審における新請求)控訴人らは、被控訴人に対し、金一一七万一、五七五円及びこれに対する昭和四八年一〇月二六日付準備書面送達の翌日以降完済まで年五分の金員並びに昭和四八年四月一日以降別紙目録記載の土地明渡まで一ケ月五万三、二三八円の割合による金員の支払をせよ。控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、左記のとおり附加訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。

一、被控訴代理人

(一)  控訴人らは、本件賃貸借契約が昭和四四年二月二日解除されたのにかかわらず、本件土地を被控訴人に明け渡さず、これがため、被控訴人は、地代相当額の損害を受けている。地代がその土地に課せられる固定資産税及び都市計画税の三倍ないし五倍であることは公知の事実であり、本件土地の昭和四四年度以降の固定資産税及び都市計画税の合計額は、昭和四四年度五万七、八三〇円昭和四五年度七万九、六〇二円昭和四六年度一一万〇、八九八円昭和四七年度一四万二、一九五円昭和四八年度二一万二、九五二円であるので、地代相当の損害金をその三倍として昭和四四年四月一日以降の損害を請求するとともに、昭和四四年四月一日以降昭和四八年三月三一日までの損害金については、これに対する昭和四八年一〇月二六日付準備書面による請求の翌日から民法所定年五分の遅延損害金をも併せて請求する。

(二)  控訴人中村亮一の取得時効に関する主張事実を否認する。

(三)  甲第一六号証の四、第二〇ないし二三号証を提出。乙第六、七号証、第八号証の二の成立及び第九号証が控訴代理人主張の如き写真であることを認め、第八号証の一の成立は不知。

二、控訴代理人

(一)  原判決六枚目裏三行目の「昭和二三年六月二五日」を「昭和二三年春」と同五行目の「その支払方法として内金二、〇〇〇円は即時に支払い、残金九三、〇〇〇円は」を「代金は被控訴人が疎開先の信州から東京に引き揚げて来た後」と、同七行目の「同日」を「同年六月二九日」と各訂正。

(二)  控訴人中村亮一は、昭和二三年六月二五日以降一〇年間本件土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有し、占有のはじめ善意無過失であつたので、昭和三三年六月二四日の経過により本件土地の所有権を時効により取得した。

(三)  乙第六、七号証、第八号証の一・二、第九号証の一ないし一二(第九号証の一ないし一二は、昭和四九年一二月五日本件土地上の建物を撮影した写真であると付陳)を提出。甲第一六号証の四、第二〇ないし二三号証の成立を認める。

理由

一、被控訴人が昭和二一年本件土地の所有者深野勘右衛門を代理して控訴人中村亮一に本件土地を賃貨したことは、当事者間に争いがない。

二、控訴人らは、被控訴人が深野勘右衛門を代理して昭和二三年春本件土地を控訴人中村亮一に売却したと主張するが、これを裏付ける的確なる書証は皆無であるばかりでなく、右主張に副う原審証人鈴木百之助の証言は、控訴人中村亮一からの伝聞に過ぎず、原審及び当審における控訴人中村亮一本人の供述も、成立に争いのない乙第七号証により認められる控訴人中村亮一が控訴人ら主張の売買の後である昭和二三年一二月二二日に本件土地の賃料を被控訴人に支払つている事実並びに原審証人深野ふさ江の証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果に対比して、到底措信しがたく、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

三、控訴代理人は、控訴人中村亮一が本件土地の所有権を時効により取得したと主張するが、同控訴人は、前記のように、その主張する売買の後である昭和二三年一二月二二日に本件土地の賃料を支払つているのであるから、時効取得の要件である自主占有についての推定は覆され、右主張は、採用のかぎりでない。

四、右のように、控訴人中村亮一が本件土地の所有権を取得したとする控訴代理人の主張は、すべて理由がないので、賃貸借契約解除についての被控訴代理人の主張について判断する。

深野勘右衛門が昭和二三年七月一一日死亡したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、本件土地は、深野勘右衛門の相続人らのうち被控訴人において取得したことが認められるので、深野勘右衛門の死亡にともなう賃貸人の地位は、被控訴人が承継したものであるところ、被控訴人が昭和四四年二月二日到達の書面により控訴人中村亮一に対し賃貸借契約解除の意思表示をしたことは、当事者間に争いがなく、また、この間、控訴人中村亮一において、昭和二七年以後賃料を全く支払わず、昭和三六年五月にいたり売買による所有権取得を主張して被控訴人に本件土地の所有権移転登記手続を求める調停の申立をしたことも、当事者間に争いがない。控訴人中村亮一が本件土地の所有権を取得したとする同控訴人の主張が証拠不十分であることは前認定のとおりであり、それにもかかわらず右の如き調停の申立をし、長期間漫然と賃料不払の事態を継続したことは、本件賃料支払債務が持参債務であると取立債務であるとを問わず、賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめる背信行為というべく、賃貸人としては、催告を要せず解除しうるものと解するのが信義則上相当である。

五、本件賃貸借契約は、右のように、昭和四四年二月二日解除されたものであり、控訴人中村亮一が原判決物件目録第二記載の建物を単独で所有し、同第四記載の建物を他の控訴人らと共有して本件土地を占有していることは、当事者間に争いがないので、控訴人中村亮一は右建物三棟を収去して本件土地を被控訴人に明け渡す義務があり、控訴人中村良平が同第三記載の建物を所有して本件土地を占有し、控訴人ら五名が同第四記載の建物を所有して本件土地を占有していることは、当事者間に争いないところ、控訴人中村亮一を除くその余の控訴人らは、本件土地の占有権原についてなんら主張立証しないので、右控訴人らは右各所有の建物を収去して本件土地を被控訴人に明け渡す義務がある。

六、賃料相当額の損害金の請求について

控訴人らは、被控訴人の主張する昭和四四年四月一日以降被控訴人に対抗しうる権限なしに、本件土地を占有しているものであるので、連帯して、被控訴人に賃料相当の損害金を賠償する義務がある。ところで、被控訴人は、賃料が土地に課せられる固定資産税及び都市計画税の合計額の三倍ないし五倍であることは公知の事実であると主張するが、右が公知であるとは思われず、被控訴人も当審における本人尋問において、賃料は固定資産税及び都市計画税の合計額の二倍半ぐらいが相場であると供述している。当裁判所に顕著な事実は、東京都内における賃料の相場は、地価が高騰するときは賃料に占める固定資産税及び都市計画税の率は大きく、最近の賃料の実勢は、固定資産税及び都市計画税の合計額の二倍程度であるということである。従つて、賃料についての鑑定申請のなされない本件では、賃料相当額を固定資産税及び都市計画税の二倍として計算するのが無難であると思われる。成立に争いのない甲第二〇ないし二三号証によると、本件土地分に課せられた昭和四四年度から昭和四八年度までの固定資産税及び都市計画税の合計額は被控訴人主張の如くであることが認められるので、被控訴人の賃料相当の損害金の請求は、(一)昭和四四年四月一日から昭和四八年三月三一日までの右税額の二倍である七八万一、〇五〇円及びこれに対する被控訴人提出の昭和四八年一〇月二六日付準備書面送達の翌日なること記録上明らかな同年一〇月二七日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金(二)昭和四八年四月一日以降本件土地明渡まで一ケ月右税額の二倍である三万五、四九二円の割合による支払を求める限度において認容し、その余の請求は棄却することとする。

七、以上認定のように、被控訴人の本訴請求中建物収去土地明渡を求める部分は正当にして、損害賠償の請求は一部正当であり、控訴人中村亮一の反訴請求はすべて失当であるので、本件控訴を棄却し、被控訴人の当審における新たな請求につき主文第二項のとおり一部を認容し、控訴人中村亮一の当審における新たな請求を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第九二条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)

(別紙)目録

東京都豊島区池袋四丁目四〇二番一

宅地二一八一・九四平方米のうち六八〇・三六平方米(その範囲は、原判決物件目録添付の図面のとおりであるので、これを引用する。)

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